-σ^2 / 2 の真実に迫る – その3

複利の場合

V(T)=V_0\cdot\prod_{i=1}^{TN}r_i(N)=V_0\cdot\prod_{i=1}^{TN}\left(\frac{\sigma}{\sqrt{N}}{\cdot} z_i+\frac{m}{N}+1\right)    —(5)

となります。これが離散的な場合の結果であり、議論のスタート台となります。


こいつの連続極限を考えます。 知りたいことは、連続極限でV(T)の分布はどうなるか?です。

具体的には、

  • 分布形
  • 平均
  • 分散

といったことを調べます。


式(5)、、、掛け算のままだと取扱いが難しいので、両辺の対数をとりましょう。

{\ln}V(T)={\ln}V_0+\sum_{i=1}^{TN}\ln\left(\frac{\sigma}{\sqrt{N}}{\cdot}z_i+\frac{m}{N}+1\right)    —(6)



ここに伝家の宝刀、テイラー展開

\ln(x+1)=x-\frac{x^2}{2}+\frac{x^3}{3}-\cdots    —(7)

を適用します。定石通り1次の項だけとると式(6)は、

{\ln}V(T)= {\ln}V_0+\sum_{i=1}^{TN}\left(\frac{\sigma}{\sqrt{N}}{\cdot}z_i+\frac{m}{N}\right)    —(8)

となって、これは正に単利の場合と同一の式でキレイに正規乱数の和に収束することが分かりました。


つまり {\ln}V(T) は正規分布になることが判明しました(覚えていますか?正規乱数の和は正規乱数です)。

さてこれで

対数をとったヤツが正規分布になった\longrightarrow元は対数正規分布

という事実から連続極限で V(T) は対数正規分布であると結論付けられました!


では平均と分散はどうなるでしょうか。


式(8)から、

  • E\left[{\ln}V(T)\right]={\ln}V_0+mT
  • V\left[{\ln}V(T)\right]=\sigma^2 T

でメデタシメデタシ、、、としたいところですが、これが大間違い!。本記事の核心がここにあります。



話はテイラー展開(7)にまで戻ります。

2次の項まで考えます。すると

{\ln}V(T)={\ln}V_0+\sum_{i=1}^{TN}\left(\frac{\sigma}{\sqrt{N}}{\cdot}z_i+\frac{m}{N}\right)-\frac{1}{2}\sum_{i=1}^{TN}\left(\frac{\sigma}{\sqrt{N}}{\cdot}z_i+\frac{m}{N}\right)^2

となります。

この式から平均を計算してみます。


E\left[{\ln}V(T)\right]={\ln}V_0+mT-\frac{1}{2}\sum_{i}^{TN}\left[\frac{\sigma^2}{N}E(z_i^2)+2\sigma m\sqrt{N}E(z_i)+\frac{m^2}{N^2}\right]

となって、ここで E(z_i)=0,\;E(z_i^2)=1 という事実を適用すると、


E\left[{\ln}V(T)\right]={\ln}V_0+mT-\frac{\sigma^2}{2}T-\frac{m^2T}{2N}

となります。そして連続極限 N\rightarrow\infty をとってみると、

E\left[{\ln}V(T)\right]={\ln}V_0+mT-\frac{\sigma^2}{2}T

が得られます。気が付きましたか?テーラー展開の2次の近似項から N  に依存しない定数が発生しているんですよ!


分散も同じ要領で計算してみると、こちらは2次の近似項は N\rightarrow\infty で消えてなくなります。従って先ほど計算した通り、

V\left[\ln V(T)\right]=\sigma^2 T

です。


以上まとめると、 V(T) は対数正規分布であり、つまり {\ln}V(T) は正規分布ということになって、

{\ln}V(T){\sim} N\left({\ln}V_0+mT-\frac{\sigma^2}{2}T,\sigma^2T\right)

となります。

標準正規分布に従う確率変数 Z を用いると、


V(T)=V_0\exp\left[\sigma\sqrt{T}Z+\left(m-\frac{\sigma^2}{2}\right)T\right]

と書き下せます。


最後にもう一言

 {\ln}V(T) の平均が \left(m-\frac{\sigma^2}{2}\right)T である。では V(T) そのものの平均は?


対数正規分布の公式から、

E\left[V(T)\right]=V_0\exp(mT)

が得られます。どうですか?実に合理的な答えになっていると思いませんか?(その1の式(3)と比較してみてください)。


長くなりましたが、あのキモチワルイ -\frac{\sigma^2}{2} の出自が理解できましたか?

-σ^2 / 2 の真実に迫る – その2

発生する金利の利率が乱数だったらどうなるか?さすがに何の仮定もないと話が進まないので、

金利(年率)は、平均m、標準偏差\sigmaの正規乱数

という場合を論じましょう。


i回目の利払金利(年率)は、

r_i= {\sigma}z_i+m   —(4)

と与えられます(ここで z_iは標準正規乱数)。


式(4)は年率なので、半期分、つまり年2回の利払いがある場合の各回の利率は、

r_i(2)=\frac{\sigma}{\sqrt{2}}{\cdot}{z_i}+\frac{m}{2}

と与えられます。一般に年N回の利払いがある場合の各回の利率は、

r_i(N)=\frac{\sigma}{\sqrt{N}}{\cdot}{z_i}+\frac{m}{N}

となります。


単利の場合

V(T)=V_0+\sum_{i=1}^{TN}r_i(N)=V_0\cdot\left[1+\sum_{i=1}^{TN}\left(\frac{\sigma}{\sqrt{N}}{\cdot}{z_i}+\frac{m}{N}\right)\right]

となります。

ここで「正規乱数の和は正規乱数になる」という、もはや犬でも知っている事実から、 V(T)も正規乱数であることが分かります。

分布の特徴は以下の通り。

  • 平均:

    E[V(T)]=V_0+\sum_{i}^{TN}\frac{m}{N}=V_0+mT
  • 分散:

    V[V(T)]=\frac{\sigma^2}{N}\cdot\sum_{i=1}^{TN}V[z_i]=\sigma^2 T

以上より、

V(T){\sim}{N}(V_0+mT,\sigma^2T)

という分布になることが判明しました。


金利が毎回変わったとしても、この式中に年間利払回数Nが含まれないので、連続極限でも同一の結果(分布)になることがすぐに分かります。



さて次は複利の場合ですが、、、これがチトややこしいので、その3に続く

-σ^2 / 2 の真実に迫る – その1

先ずは準備運動

元金がV_0、利率をr(年率)とした場合の単利と複利の場合それぞれで、 T年後の元利合計を改めて考えてみましょう(何を今更、、、)。

単利の場合

年間に利払いがN回あるとすると、1回あたりの利率はr/NとなったうえでT年後までには金利がTN回つくのでの元利合計は、

V(T)=V_0+V_0\cdot\underbrace{(r/N+r/N+\cdots+r/N)}_{TN \text{times}}=V_0\cdot(1+rT)—(1)

うーん文句なし。まったくもってあたりまえだ。


複利の場合

上記と同様に利率はr/Nとなるので、

V(T)=V_0\cdot\underbrace{(1+r/N)(1+r/N)\cdots(1+r/N)}_{TN \text{times}}=V_0\cdot(1+r/N)^{TN}—(2)

となります。



次に上記の式でN\rightarrow\inftyとしてみましょう。世にいう連続極限と呼ばれる操作です。 これは年間の利払い回数が無限大、つまり無限に短い期間に無限に小さい利率による利払いが発生し、それが無限に積み重なった場合を考えることです。


単利の場合

式(1)の中にNが含まれていないのでN\rightarrow\inftyとしても結果は同じです。

複利の場合

式(2)でN\rightarrow\inftyとするとどうなるか、結果だけ書きます(高校数学!)

V(T)=V_0\cdot\exp(rT)    —(3)

連続極限で指数関数になります。


と、まぁこんな話はどの金融の教科書にも最初のページに書いてあります。


さて上記のケースは全て金利が一定値rという場合です。 そうではなく、金利が乱数だったらどうなるでしょうか。それが今回の記事で書きたいことです。


その2へ続く、、、